山本大使寄稿文
月刊FECニュース・ハンガリー便り
ヨーロッパへの橋頭堡
ハンガリーは美しい国である。その国について大使として赴任するまでは殆ど何も知らなかった。今でも「駆け出し」の域にすら達していないと思う。しかし、日本にとっては「いい国」であると思う。そのわけを説明してみたい。
ハンガリーはアジアのルーツを持っている。言語は、日本語と同じ系統のウラル・アルタイ語に属すると言われている。ハンガリーの「ハン」は、フン族のフンから来たとの説がある。このこと自体は、正しくないようである。学術的な調べが進んでおり、先祖は、ウラル山脈の東の騎馬民族のようである。しかし、多くのハンガリー人は、日本人を見ると、同じアジアのルーツを強調して親近感を表す。要人とも、ビジネスマンとも直ぐに親しくなれる。
ハンガリーは、敗戦国である。第一次世界大戦、第二次世界大戦とも負ける側にいた。その結果、国土面積は、従前の三分の一になってしまった。国民は、その歴史的悔しさを覚えている。その悔しさは、民族のプライドと、位置する中欧に於いて名誉ある地位を求めるエネルギーの源になっている。小国だからと軽んじられることは受け入れない。EUとはしょっちゅうぶつかっている。「欧州の異端児」とEUの旧メンバー国から批判されることも少なくない。
自らの欧州における地位と影響力を高めるためには、EUに遅れて加盟した中東欧諸国の間の協調と連帯を進め、更には、欧州を外に向けて開いたものとして、域外との協力も進めることが大事だと信じている。日本を始めとするアジアの国々との協力は、ハンガリー自信の欧州域内の立場を強くする上で必要と考えている。従って、日EU・EPA締結も、ハンガリーの利益であり、外相理事会でも率先して、その推進を主張する立場に回ることになる。EU内の大勢に流されたり、不当な主張に安易に与することはない。
ハンガリーは欧州の中心に位置する。ハンガリーを中心に半径1000キロの円を書くと欧州がその中にすっぽりと入ってしまう。高速道路網もこの地域で最も発達している。南欧、北欧、西欧、東欧が全て近い。地理的に見て利用価値は高い。
日本と同じで、資源は人しかない。従って、教育水準は高く、優秀である。工場におけるクォリティ・コントロールも日本に負けないことが出来る。多くの欧州企業も、ハンガリーを生産拠点と位置づけている。
ハンガリーは、自らの将来は、欧州の一員として確固たる地位を占めることにあると考えている。その自らの地位確立のために日本と関係を強化することを望んでいる。欧州に入り込んでいき、関係強化を実現する上ではなかなか良い相手国ではないだろうか。
2013年11月
駐ハンガリー特命全権大使
山本 忠通